デザインの力を思い知った、ある開発プロジェクトの話(デザイン思考 x エンジニアリング)

パソコンでデザインしている様子

「デザイン思考」という言葉を我々エンジニア業界でもよく耳にするようになった。デザイン思考とは「デザインを通じて人間の困難な課題を扱うもの」と定義されている。

もともとデザイナーの行動様式や考え方を指すものだが、それがビジネスにも適用できるということで、導入・教育を進めている会社も多いのではないだろうか。

会社でデザイン思考を体験するワークショップが開かれる機会も多いかと思うが、参加者からは「具体的にどうビジネスに活かせるのか分からない」という声も多いように思う。

私も以前は懐疑的だった。しかし、あるプロジェクトを通じてその見方が大きく変わった。デザインは確かに課題を解決する大きな力をもっている、そう思うようになった。そこで今回はデザインの力を思い知った、ある開発プロジェクトの話をしたい。


プロジェクトの概要

新規の顧客だった。その業界は構造的な課題を抱えていて将来的には立ち行かなくなる、それを何とか解決したいと考え、新たに会社を興した顧客だった。

その業務では、これまでICT はあまり活用されていなかったが、これからはそれらを活用しなければ生き残れないと考え、我々に相談を持ちかけていた。

そんな経緯だったので、今まで経験したプロジェクトとは毛色が違った。これまでのプロジェクトは、顧客がこんなものがほしいと大体のイメージを持っていた。しかし今回のプロジェクトは、あまりシステムのイメージは持てていない状態だった。

また顧客の業界が抱える課題、やりたいことの説明を受けたが、なかなか共通認識が進まない、そんな状況だった。そこである上司が知り合いのデザイナーに声をかけた。それがデザイナーとの出会いだった。


デザイナーの参画

デザイナーが来ると聞いて、私はデザインが何の役に立つのか?と疑問を持っていた。それまでデザイナーと一緒に働いたことはなく、デザイナーは画面の見栄えを良くする人たちだと思っていた。まだシステムのイメージもまとまっていないのに、見栄えもなにもないだろうと。

そして、そのデザイナーがプロジェクトに参画してからすぐに、私の誤った認識は正されることになった。


デザイナーの行動

アイスブレイク

まずはアイスブレイクしましょう。デザイナーは言った。最近感じたことや思っていること、このプロジェクトに対する思いなどを皆で付箋に張り出していった。それをもとに皆で会話することで、これまで知らなかった一人ひとりの思い、価値観が見えてきた。


ペルソナ

次にやったのはペルソナ創りだった。ここでのペルソナとは、顧客の顧客、つまり顧客のサービスを受ける人の人物像だ。ここではそのサービスを必要とする人を非常に具体的に設定する。年齢、性別、性格、趣味、嗜好、抱えている問題、思いなどだ。

ここから顧客の顧客が何を求めているのかが浮かび上がってきた。


リサーチ

ここでは、その業界の最新動向をもとに皆で気づきを話し合った。デザイナーに対して、見方が大きく変わったのはここだった。

デザイナーは、事前にその業界の動向、抱える課題、その原因などを詳細に調べてきていた。その知識は顧客も驚くほどだった。デザイナーがそういった泥臭いことをやる人だとは思っていなかった私はとても驚いた。エンジニアより顧客に寄り添い顧客のことを理解していた。


ビジョニング

最後に、顧客の解決したい課題、ビジョンについて付箋に張り出し話し合った。これまでのワークで顧客と我々は共通認識ができていた。その議論は顧客の思いを明確に浮かび上がらせた。

そして、デザイナーはこれまでのまとめとして、業界の抱える課題、顧客のビジョン、課題の解決方法、As Is - To Beを1つのドキュメントにまとめた。顧客も「これまで思い描いていた思いが今形になった」と称賛していた。この時、顧客と我々は1つのチームになった。


開発

デザイナーは以降参画しなかったが、開発はそのビジョンをまとめたドキュメントをもとに行われた。開発の段階では顧客も我々も新たなメンバーが入ったが、そのドキュメントのおかげで、共通認識を得るのは容易かった。

これまでのプロジェクトと大きく違ったのは開発メンバーだった。これまで開発メンバーが受け取っていたのは、こういったことをしたいとだけ書かれた要件定義書だった。もちろんその背景は多少書かれていたが、無味乾燥したものだった。

今回は、そんな要件定義書には書かれていない課題とその背景、なぜ解決したいのか、顧客の思いがはっきりと描かれていた。開発メンバーはその思いに共感し、共にその課題を解決したいと励んだ。

また顧客との関係も違った。要件、契約といったものでお互いを制限する関係ではなく、共にその課題を解決するために集まったチームだった。顧客も我々も、そのビジョンに沿っているか?どう実現できるか?という観点で平等に議論できた。

そして開発は驚くほど短期間で、顧客の求めるものが完成した。これまでにない成果だった。


まとめ

デザイナーがやっていたことは、つまりデザインだった。顧客の頭の中にある思い、顧客の顧客の思い、課題、我々はなぜここに集まり何を解決するのか、そういった形の無かったものを見える形に落とし込んでいった。

顧客とエンジニアだけのプロジェクトでも、もしかしたら同じように1つのチームに到達することがあったかもしれない。しかしそれは顧客との関係や状況によって、なかなか再現できないものだったのではないだろうか。

しかし、デザイナーはその知識と手法をもって再現することができる。確かにデザイン思考はビジネスに活かせる。そう確信したプロジェクトだった。


ちなみに、そのデザイナーにどうやったらその手法を学べるか聞いたところ、紹介してもらった書籍がある。デザイナーの間ではバイブルと呼ばれているらしい。

私も購入して読んだが、非常に重厚な本なので読むのには根気がいる。しかし、確かにデザイナーのやっていたことがその本に書いてあり、またベースになる考え方、他の様々な手法についても書かれていた。興味が湧いたらぜひ手に取ってみてほしい。

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